「透様。お帰りなさいませ」






「ああ、ただいま」








「お食事にしますか?お風呂にしますか?」








「お風呂を頼む」







「承知致しました」








俺は、簡単に言うと人間ではない。






妖(あやかし)だ。






それも、貴族の中でも上位の妖。






いつもは妖怪達の暴走を止めたり、この世界がより良くなるように仕事を行う。





たまに、俺たちに反対するもの達と戦うことも多々ある。










「透様。元気がないようですがどうされましたか」







「今日、キキに会った」







「左様でございますか!」







「それも、まだ記憶を取り戻していないのに妖の姿で」






「あら……」







「いつになったら俺のことを思い出してくれるのだろうか。昔のような生活に戻れるのだろうか」









「そうですね……あの方がいた頃は町中どんちゃん騒ぎでしたもの」







毎日が宴のように楽しかった日々。






城では月に1回宴会を開きあらゆる妖が集まっていたものだ。






でも今では、喧嘩ばかり。






止めるものもいなければ、慰めてくれるものもいない。







気力すら感じられない。







「上がるとしよう。今日は久しぶりに杯を交わそうじゃないか」








「喜んで」



















昨夜の飲み過ぎでか、頭がズキズキする。







着物を着たままだし、耳は出ているし。







「あの人がいなくなってから初めてこんなに飲んだな」









透の、目はどこか遠くを見ていた。







黄昏ている中慌ただしい足音が近ずいてくる。






この足音は、執事の小鳥だろう。








「透様!お客様がまもなくご到着致しますぞ!」







「客?そんなの今日は言ってたか?」








「急遽ですよ!早く起きて、お着替えになってください」








「はいはい」







着付けのものがいつもの2倍入ってきた。





相当くらいの高い客なのだろう。







そう思いながら重い瞼を擦り、着替えた。











緑と赤で鮮やかに作られた着物。

柄は金で狐が描かれており腰元にはファーが着いている。


胸元は少し空いておりすこしだけフリルがついている。



裾は長くぞろびくほどで、屋敷の中とはいえ草履を履く。



目元にすこしめいくをし、尾と耳を出す。








客室に向かう途中に馬車置き場を見たが止まっていない。





不思議に思いながら襖を開けるとそこに待っていたのは桃音だった。






「お久しぶり」






「お久しぶりです。桃音様」






「そんな堅苦しくしないで。それにしても大きくなったわね」







「はい。もう500歳を迎えましたからね」





「そうなの?まー私にはまだまだお子ちゃまですけどね」






「ははは。それで、今日は何用ですか?」








「あー、キキに会ったようですね。どうでしたか」







「どう?とは。」





「キキの記憶ですよ。思い出してる感じ、しました?」






「全くですね」







「そう。あなたは、思い出して欲しい?」







「もちろんです。今の状態を見てそう思わない人は居ないはずです」








「そうよね。分かったわ、要はそれだけよ。一時の間頑張ってちょうだい。私たちにはその資格すらないのだから」











桃音が帰ってからも透は、椅子から腰を挙げなかった。





机に肘をおき顎を乗せる。






鬼輝が記憶を無くしてどれくらい経っただろうか。






それすらも分からないほど一日のすぎる速さは早かった。








「俺じゃ、何も出来ない」