「王さま。そろそろお城に戻りましょう」
「透……。妾はどうしたらいい?」
「戦うのです。私たちと一緒に」
城に戻るも険悪な空気は続いていた。
妖の中でも上位の武士たちが集まり烏どもは一人残らず処分することに決まった。
そして、1週間がたち戦いの時になった。
「妾が指示を出す。皆はそれに従ってくれ」
「「はい 」」
「心花達のところから先頭にたち敵の兵を減らしてくれ」
「はい」
「希音と心音の班は横から周り敵を倒すと共にひよじぃを救出してくれ」
「はい。」
「皆、いくぞ!」
「「はい!」」
現れた敵の数は想像以上に多かった。
烏だけでなく、その他の者達も……。
中には武将になれなかった兄弟達も。
そんなことは関係ない。
罪のないもの達まで傷つけるのはこの国では許さない。
戦いは、スムーズに進みひよじぃも、救出することが出来た。
けが人は集めた医者により治療され、残るのは烏の長だけ。
「お前以外の奴らはもう動けん。お前も降参するか」
「降参?俺にそんな言葉はない」
「この状態でよくそんなことを言えるな」
「もちろんだ。これがあるからな」
手のひらに乗っていたのは黒い玉。
よく見てみるとそこには王家の紋章が。
「それは!」
それは、遠い昔に王の使いとして生まれてきた龍だった。
その力は凄まじくひと吠えしただけで、聴覚を失う程だった。
その龍を扱っていた、先代の王が亡くなったことにより龍は、誰かの手に渡ってしまった。
「何故お前がそれを」
「先代からの贈り物だよ。これでお前も殺せる。そしたらこの俺が王様だ!」
その玉を空高く投げた。
玉からはものすごい明るさの光が放出され出てきたのは色鮮やかな龍。
『何用だ』
「あやつを殺せ」
『……』
「透!みんなを非難させるのじゃ!」
「で、でも!王1人ではかなわぬ相手」
「いいから早く!王命だ!」
「……はい」
王以外は遠くに離れ、2人が見える場所に身を隠した。
すると2人の周りには薄い紫色の幕が張られていく。
「あれは?」
「バリアだよ。誰も入れない」
「じゃぁ、近づこうよ」
「そうしよう!応援くらいしていいだろ」
「行こうよ」
「透さま!」
「……王命だが、そうしよう」
「その龍をお前は操れるのか」
「さーな。試したことがない。でも俺はお前さえいなくなればどーでもいい」
「っそれはしない」
「じゃぁ、殺す」
『キャーーーーー』
頭がかち割れそうなくらい大きな奇声に、尾を降って攻撃してくる。
封印されていたにもかかわらず、ものすごい力だ。
防ぐことが出来ず、強くバリアに叩きつけられた。
「ぐはっ!」
「ハッハッハッハーー!もっとやれ」
『キャーーーーー!』
「同じ攻撃は効かない」
王は、身軽に避けた。
しかし、龍にはかなわない。
炎をだし焼いてもすぐ回復し、毒を飲ませても死なない。
得意な刀で戦っても、刃がダメになる。
それを見ていた烏の長は弱り果てた王にトドメをさす。
「お前もここまでだ」
「……」
グサッ、血を吹きその場に力なくして倒れた。
意識が朦朧とする中、目に映ったのは体中に紫の炎を持つ王、鬼輝だった。
「お前には負けない。罪を償って死ね」
『流石だな』
「当たり前じゃろう。ところで主をなくしたお前はどうする。」
『主?こやつが?バカをいえ』
「じゃぁ、だれだ」
『俺の主は王だけだ。』
「そうか。なら王命だ、今すぐ元に戻れ」
『いやだ。無償では戻らぬ』
「じゃぁ、何をしたら戻る」
『……お前の王の時の記憶を全て俺に差し出せ。返事は「はい。」だけだ。
お前の先祖のせいでこの俺は長い間暗い闇に閉じ込められていた。だからお前の記憶を欲しいのだ。じゃなければ、ここにいる皆を殺す』
「き、記憶。本当にそれだけでみんなは助かるのじゃな」
『嘘などつかん』
「わかった。」
『おお、勇敢な王だな。ひとつ約束しよう。もしお前が記憶を取り戻すことが出来たら俺はお前に一生使えてやる。勇敢な王は大好きだからな』
龍が、鬼輝の口から体内に入り記憶を食い尽くす。
強い痛みと、めまいに襲われる。
「っ……ぐぁ!」
血を吐き、鬼輝は記憶を失った。
自分が妖の中の王だということ、友達が妖だということ、そして透が婚約者だということを。
記憶を失って1年。
現在の鬼輝に至る。