「俺な、辞令もらって、ウチの課に来るってことになった時、決心したことがある。何だと思う?」


「さぁ・・・?」


突然そんなことを問われ、私は戸惑う。


「恋愛しよう、彼女見つけよう。そう思ったんだ。」


「えっ?」


当然仕事関連のことだとばかり思っていた私は、あまりに予想外の課長の言葉に驚きを隠せない。


「とにかく仕事が楽しくてさ、無我夢中でやってたら、課長にしてくれるって言われて。嬉しくってさ、天にも昇る思いでガッツポーズしてさ。周りからも内心はどう思われてるかは知らないけど、おめでとう、やったなって言われて。同期の中では昇進一番手。よし、このまま突っ走るぞって浮かれてたんだけど、フッと我に返った。」


そこで課長は私の顔を見た。


「なんか足んないんだよ。それで、考えているうちに気が付いた。側にいて、一緒に喜んで、祝福してくれる人がいないじゃんって。親は確かに大喜びしてくれたさ、それはそれでもちろん嬉しかったけど。『要、よくやったじゃん、おめでとう。』って言って笑顔をくれる人がいない。それって、やっぱり寂しいなって実感したんだ。」


「・・・。」


「引き継ぎに来た日、そんな対象になる子はいないかなって。俺は年上はゾーン外だし、既婚者は論外だし、彼氏持ちもパス。前の課長の話はちゃんと聞いてたけど、そんなことを考えてたのも確かなんだ。」


そう言って課長は笑うけど、前に勤務時間中は、仕事のことだけ考えてろって言ってなかったっけ・・・?


「そしていよいよ着任。俺は外出にかこつけて、女子の部下をひとりひとり順番に連れ出した。いろんな人となりを知りたかったし、彼氏がいるかどうかも探りたかったから。露骨にならないように、課員全員を最低1回は連れ出したけど、まぁ男や既婚女子はハッキリ言って、どうでもよかったのよ。」


私は唖然としながら、課長のカミングアウトを聞いていた。