「木村さん。年上で、マーケティング課のキャリアも長いあなたに、こんなことを言うのは、生意気と思われるでしょう。石原も内田も、今までそんなこと言われたことないし、って内心反発してるだろう。」


課長の口調は、少し穏やかになった。


「営業の世界ってね、凄く人間臭いんだよ。」


「・・・。」


「数字に抗えないのは確か。だけど、数字や理詰めだけじゃ全ては決まらない。ある取引先に定番採用される商品はあと1つ、そこにA社とB社の類似商品が候補に上がる。味も価格も甲乙つけがたい。そこで最後の決め手になるのは、バイヤーの好み、バイヤーと営業の人間関係、そんなの決して珍しい話じゃない。」


「はい・・・。」


「それがいいとか、悪いの問題じゃないんだよ、石原。人間には感情がある、嗜好もある。俺達はそういうものを相手にして、仕事をしている。それを忘れちゃいけないんだよ。」


「・・・。」


「この部署に来て、パソコンとにらめっこしてれば、誰とも喋らなくても、仕事もどきは出来る。そんな環境に正直、薄ら寒さを覚えることがある。もう一度言う、データ分析が俺らの仕事であることは間違いない。だけど、そればかりに目を奪われることなく、もっと血の通った仕事をしていこう。よろしくな。」


課長が私達の顔を均等に見て、ニヤッとまた愛嬌のある笑顔を向けた時、ちょうど昼休みのチャイムが鳴った。