「だから違うんですよ!」


翌日、木村さんと千尋、そして私の3人で作成、提出した書類を課長が一読した途端、私達はデスクに呼びつけられた。


「このペーパーは上がって来たデータの分析としてはよく出来てる。だけど、皆さんの意思はどこにあるんだ?」


「意思?」


「このデータは取引先に委託して、収集してもらったもので、皆さんが足で集めたデータじゃない。」


「・・・。」


「もちろん全ての情報を自分達で集めることが出来ないことくらいわかってる。しかし、提供されたデータだからこそ、ただそれを受け入れるだけじゃダメなんですよ。」


課長が何を言わんとしているのは、私にはさっぱりわからず、木村さんも千尋も、ややあっけにとられた感じで、課長を見ている。


「我々が相手にしてるのは人間だ。その趣味嗜好は千差万別、通り一編のデータ分析で測り知れるわけがない。我々はマルタカの社員である前に、1人の人間であり消費者だ。ああこんな商品があったら買うのにな、あんな商品を食べてみたいな、そう思うことは普通にあるでしょ。」


「・・・。」


「でも会社員という殻を被った途端、そんなの全部忘れてしまい、会社側からでしかモノを考えなくなる。貴重なデータを前に、そこに消費者としての自分を重ねることなく、ただパソコンを睨んで、ペーパーを作ることに勤しむ。それが必要じゃないなんて言わない。だが、私はデータの集計と、通り一遍の分析が仕事。あとは隣の企画課の仕事だと言うなら、あなた達はいらない。AIにでもやらせた方がよっぽど正確に迅速にペーパーを作ってくれるでしょ。」


そう言って、うつむき加減の私達を課長は見回した。