課の雰囲気は変わった。それまでは、チームプレーを重視し、和気あいあい、楽しく仕事をしようという感じだったのが


「1年365日24時間、仕事のことを考えて欲しいなんて、馬鹿げたことを言うつもりはない。そんなことが出来る人間がいたら、お目にかかりたいよ。だが、我々が会社にいるのは8時間、1日の1/3に過ぎない。休日も1年の1/3強ある。だったら、会社にいる時間だけは仕事のことを一心不乱に考えて行動していこう。」


となんの迷いもなく言う上司の存在を有り難がる人は、果たしてどのくらいいるものだろうか?


「参ったね・・・。」


そんな日々が1週間程、過ぎた日の夕方。既に定時を過ぎたオフィスには、課長の姿はなかった。


「僕は残業しろともするなとも言わない。必要だと思えば、すればいいし、必要じゃなきゃ、とっとと帰って欲しい。僕は営業時代、自分が必要じゃないと、判断したら上司がどんなに言って来ても絶対に残業をしなかった。それだけ自分の仕事に責任と自信を持ってやっていたつもりだ。それで、会社に迷惑を掛けることは絶対にないってね。それに・・・プライベートは大切だしね。」


そう言って、ニヤリと笑うその笑顔は、妙に愛嬌があった。だけど・・・。


鬼の居ぬ間のなんとか、ではないが、私達はまったりとした時間を過ごしていた。


アタックしようなんて、浮かれ気分はとうに吹っ飛んだ千尋がため息をついている。


「あれくらいやらなきゃ、縁故でもない限り、20代で課長になんて、なれないってことだよ。そりゃ本人は、明るい未来が開けて来て、張り切ってるんだろうけど、こっちは堪らんよ。」


30代の先輩男子社員の木村(きむら)さんも疲れた声を出す。


「でも有言実行、率先垂範ですからね、課長は。文句言えないですよね。」


と私。


「だから、余計困るんだ。この雰囲気に隣まで飲みこまれ始めてるし、部長は大喜びだけど。」


そんな会話を交わしてると
 

「お先です。」


「澤城くん。」


帰り支度の澤城くん。


「帰るの?」


「ああ。無駄な残業はしない、課長命令だから。皆さんも帰るかやるか、どっちかにした方がいいですよ、じゃ。」


そう言って、部屋を出て行く澤城くん。


「アイツ、あの課長と合うかもね。」


「うん・・・。」


そんなことを話しながら、私達は「やる」を選択して、動き出した。