2週間後、新課長は正式に着任した。


「本日よりマーケティング課長を拝命することとなりました小笠原要(おがさわらかなめ)です。入社7年目、これまで営業一筋で、やって来ましたので、マーケティング部門は全くの素人です。が皆さんにもいろいろ教えていただきながら、勉強していきたいと思います。どうか、よろしくお願いします。」


部合同朝礼では、こんな無難な挨拶をした小笠原新課長だったが、その後の課ミーティングでは


「改めてよろしくお願いします。私は入社以来、営業畑にいましたが、営業が成績を上げる為には、よい商品があることが大前提です。よい商品とはイコール売れる商品、売れる商品イコール消費者に支持され、求められる商品。消費者のニーズを失った商品は市場から退場を余儀なくされ、そんな商品ばかりを抱えた会社は、最終的には社会から消え去る運命となる。」


ここで一旦言葉を切って、私達の顔を見渡した課長は


「消費者のニーズを見失った企業に明日はない。つまり、その命綱とも言うべきものを最前線で集める我々の責務は、とてつもなく重い。まず、皆さんにはその認識を改めて、強く持っていただきたい。」


課長の口調は、いよいよ熱を帯びて来る。


「私が皆さんに仕事を遂行する上で、求めたいのは『責任』と『切磋琢磨』です。まずは各人が己の仕事に責任を持つ。そして、デスクを並べる同僚は、仲間であると同時に、仕事を遂行する上での、ライバルと思って欲しい。他の人より、少しでもよい仕事をする、アイツがああいうやり方をするなら、自分はこうやって、もっといい成果を出す。そうやって、お互い切磋琢磨しながら、成長して行く。常にその意識を持って、仕事に臨んでいただきたい。」


そう言った課長の顔は、自信に満ち溢れていた。