そして迎えた9月。秋の定期異動が発令され、私が入社以来、お世話になった課長が、めでたく営業本部に栄転となった。


「聞いた?後任の課長、まだ29歳だって。」


「へぇ、そうなんだ。」


そして昼休み。早くもどこからか、そんな情報を仕入れて来た千尋が、早速それを披露する。


今の課長が30代後半、他の課を見回しても、若くて32、3歳と言うところ。40代の課長もいるのだから、ギリギリとは言え、20代での課長就任は、確かに早いかもしれない。


「営業でバリバリやってたみたいで、その上、独身だって。キャ〜、楽しみ。」


そんな話で、同期と盛り上がっている千尋を横に、やれやれと思いながら、私は箸を進める。すると


「ねぇ梓、聞いてるの?」


と千尋に問われる。


「聞いてるよ。よかったじゃん、千尋。」


「なに、他人事みたいな口ぶりで言ってんのよ。チャンス到来とは思わないの?」


「私はあまり・・・。」


「ちょっと、梓ももう25だよ。少しは恋愛に積極的にならないと。それとも、まさか澤城にまだ未練があるんじゃないでしょうね?」


ノリの悪い私が心外らしく、詰問するような口調で、千尋は言ってくる。


「別にそんなわけじゃないけど。」


澤城くんが今だに好きなのか、と問われればイエスだ。でも、彼にその気がない以上、もうどうにもならないんだという割り切りは出来てるつもりだ。


「だったら、もう少し張り切りなさいよ。営業で実績残して、営業外部門も経験して、大過なく過ごせば、あとはもうエリート街道まっしぐら。そんな優良物件が、向こうから飛び込んで来るんだよ。」


そう言う千尋の表情は輝いていた。