予期せぬ課の異動を告げられ、正直慌ててしまったが、まさか石原が俺の教育担当になるとはなぁ。


なんとも自信なさげに、それでも一所懸命に俺に語りかけてくる石原。かつての同級生とは言え、今は立派な先生役の先輩に対して、失礼なんだが、可愛いなぁ、健気だなぁなんて、思ってしまっていた。


「とりあえず、今日はこれまでにするけど、どう、何か質問あるかな?」


「大丈夫。本当にとても分かりやすかったから、ありがとう。」


「本当に?そう言ってもらえると、嬉しいかな。」


「学校の先生になればよかったかも。いい先生になったんじゃねぇか?」


「そんな、私なんか無理に決まってんじゃん。」


そう言って照れる石原。もしこんな先生が中学や高校の時にいたら、俺はその先生の担当教科を死ぬ気で勉強したに違いない。


「とにかく突然のご指名だったんで、準備もしてなかったから・・・。でも澤城くんが飲み込みが早いから、助かる。あと2日もあれば、だいたいの説明は終わると思う。」


「わかりました。では、今日はお先に失礼します。明日、またよろしく頼みます。」


「こちらこそ。」


そう言って、俺に笑顔を送ると、石原は自分のデスクに戻って行く。急に教育担当に指名されて、自分の本来の仕事が滞ることとなり、今日もこれから残業して、少しでも取り戻すつもりのようだ。


(すまないな、石原。)


俺は、心の中で、彼女の後ろ姿にこう告げると、静かにオフィスをあとにした。