「ふぅ。」


「なに、ため息ついてるんだよ?」


「だって・・・。」


こうして始まった新人教育。基本的なことは、企画課の方で教えられているので、私に与えられた任務は、ウチの課の仕事を実際に、すぐに澤城くんに教え込むこと。


GW前から、繁忙期に突入している我が課にとって、一刻も早く彼を戦力化しなければならない状況。私はヒシヒシとプレッシャーを感じざるを得ない。


「教わる俺より、教える石原さんの方が、緊張してるって、おかしいだろう。」


普段は呼び捨ての私のことを、さん付けで呼ぶ澤城くん。どうやら仕事中は私を先輩として立てるという彼なりのケジメのつもりのようだ。


「正直、荷が重いんだよ、私には。ゴメンね、わかりにくい説明で。こういうのは、千尋の方が適任なのに・・・。」


「適任かもしれないけど、内田さんと俺とじゃ、30分でケンカになる。課長はそう判断したんだろ?」


そう笑いながら、澤城くんは言う。


「それに、石原さんの説明、分かりやすいよ。大丈夫、その調子で頼むよ。付いていきますから。」


「澤城くん・・・。」


そんな軽口を言って、私を和ませようとする澤城くん。これじゃ、どっちが先輩で教育担当なんだが、わかんないよ。


「それにしても、兄妹揃って、石原さんの世話になることになっちゃったな。」 


「えっ?」


「ウチの弟と妹が、昔世話になってたんだってな。ちっとも知らなくて、ゴメンな。」


「う、うん・・・。」


突然、そんな話題を振られ、私が返事に戸惑っていると


「さ、続きをよろしくお願いします。」


こんな感じで主導権は、すっかり澤城くんの方にある。私、ダメダメじゃん、これじゃ・・・。