着いたのは、海。車を降り、海岸に向かって歩き出すと、少し風があったけど、その潮風が心地よい。


砂浜では、多くの家族連れが、潮干狩りを楽しんでいるのが見える。穏やかで幸せそうな風景だった。


私がそんな景色を眺めていると


「潮干狩りか・・・やったことねぇな。」


とつぶやくような澤城くんの声。


それまで、気恥ずかしくて、ずっとその声の方を向けずにいた私は、ようやく澤城くんを見た。


「ウチは親はずっと共働きだったし、特に親父が亡くなったあとは、もう家族の団欒とか、そんなものとは、ほとんど無縁になっちまったからなぁ。」


「・・・。」


「仕方ないって、子供心に諦めてたけど、寂しくはなかったと言ったら、やっぱり嘘になるな。」


海の方を見つめながら、澤城くんは続ける。


「親と出掛けた記憶なんて、本当に数えるくらいしかない。弟や妹なんて、ほとんどねぇんじゃないかと思う。」


また沈黙が私達を包む。はしゃいでいる子供の声が、嫌でも耳に届く。その横で、その姿を愛しそうに、微笑ましそうに見る親御さん達・・・。


私にも普通にあるそんな記憶が、澤城くんにはほとんどない。そのことに、私の胸は痛むけど、そんな彼に掛けてあげられる言葉を見つけることが出来ない私・・・。


結局、その沈黙を破ったのは、澤城くんの方だった。


「すまない。こんなことを話す為に、石原を誘ったんじゃないのに。俺はお前に謝らなきゃいけないことがある。」


その言葉に、私はハッと彼を見た。