「大学の恩師って、昨年亡くなったの?」


「ああ。3年の時にゼミに入れてもらって。そのまま院に進んで、研究室に残してもらって、卒業しても、そのまま残って教授の下で、やってく予定だった。ところが俺が院の1年生の時に、教授が突然病に倒れて、1年後に亡くなっちまった。主を失った研究室は当然閉鎖、俺達は路頭に迷いかねなかった。」


「・・・。」


「だけど、既に自分の余命を自覚していた先生は、手を打ってくれていた。他の研究室に移籍したり、民間企業に就職の口を利いてくれたりして、全員の行き先が決まったのを見届けると、まもなく亡くなった。新人歓迎会の時に、内田に『あんた、本当に就職試験通ったの?』って言われちまったけど、まさしく俺はコネ入社なんだよ。」


そう言って苦笑いする澤城くん。


「アイツに言われるまでもなく、一生研究室に籠もってるつもりだった。全く世の中、ままならないよなぁ。」


澤城くん・・・。


「でも、教授が元気だったら、こうして石原や小川と再会することもなかったってことだよな。」


ややしみじみとした口調でそう言った澤城くんは


「石原。」


「はい。」


「お前、この後、予定あるか?」


「ううん、特には・・・。」


そこで信号待ちになって、澤城くんは私を見た。


「じゃ、少し俺と付き合ってくれ。ちょっとドライブしようぜ。」


真っ直ぐに私を見ながら、そう言ってくれた澤城くんに、私はコクンと頷いていた。