「おい。バカ、何してるんだよ。よせよ。」


俺が慌てふためいていると


「あなたの言った通り、あの頃の私は本当にバカだった。人の心を弄んで、楽しんでた。最低だった、恥ずかしいよ。」


と土下座したまま、小川は言う。周りに人はいなかったが、俺は困惑する。


「小川、わかった。わかったから、土下座だけは止めてくれよ。」


そう言って、頭を上げさせようとするけど


「もう1つだけ言わせて。告白されたのに、まだ気づいてないみたいだけど、梓は、あのこととは無関係だからね。」


「えっ?」


「梓が・・・あんなことする子だと思う?」


「小川・・・。」


ここでようやく小川は頭を上げたけど、まだ正座したまま。


「あの時、あなたが中身も見ないで破り捨てた手紙。私も中を見たわけじゃないけど、たぶん内容は、私が翔真くんに渡したのと変わらなかったと思う。だけど・・・あなたがもし、あの手紙を読んで、指定された場所に行ったとしても、待っていたのは、間違いなく梓1人だけ。梓は本気だったんだよ、梓は本当にあの時、勇気を振り絞って、あんたに思いを伝えようとしてたんだよ。」


その小川の言葉に、俺は愕然とする。


「でもその梓の勇気を私がぶち壊した。あんたが誤解したのも、無理ないと思う。親友の翔真くんが私達に酷い目に合わされて、数日後だもんね。私と梓はいつも一緒だったし。でもね、梓は誓って無関係だからね。むしろ、私を懸命に止めてた。『美里、そんなことしちゃ、ダメだよ。このままじゃ、私、美里が嫌いになっちゃう』って。でもあの時の私は本当にどうかしてた。悪い仲間とつるんで、暴走しちゃってた。楽しんじゃってた・・・ごめんなさい。」


ずっと前から、小学生の頃から、あなたが好きだった・・・石原の言葉が甦る。


(あれは本物のラブレターだった。当時はもちろん、この前もそれに気付かなかったなんて・・・。)


俺は自分の迂闊さに、呆れるしかなかった。