キリがいいところまで、そう思って頑張っていたら、いつの間にか7時を過ぎていた。オフィスの人影もだいぶまばらになっていた。


千尋はとっくにご機嫌で、帰って行ったし、澤城くんもいつもの通り、定時で上がったんだろう。やっぱり姿はもう、見えなかった。デスクを片付けて、私も席を離れた。


帰りながら、携帯を確認すると、メールが入っている。美里からだ。仕事が終わったら、連絡が欲しいと。


美里とは昨夜、電話で話した。もちろん澤城くんとの顛末を話す為に。


結構、平静を保っているように見せてるけど、本当はやっぱり悲しい。昨日の美里との電話では、泣いてしまった。


『梓、よく頑張ったね。澤城の分際で、梓を振るなんて、本当に許せないけど、でもこればかりは仕方ないよ。梓、辛いだろうけど、10年越しの思いに、とりあえず決着が付いたんだから、前を向いて行こう。』


受話器から、聞こえる美里の言葉に、溢れる涙を止めることは出来なかったけど、私は懸命に頷いていた。


それから1日経って、ゴールデンウィークの予定の確認かな、と思いながら電話をしてみる。


『お疲れ様。今、大丈夫?』


「もちろんだよ。どうしたの?」


『澤城の電話番号、教えて欲しいんだ。』


「えっ?」


美里の意外な頼みに驚く私。


「まさか、私のことで、澤城くんに何か言うつもり?」


『私の梓を傷付けて、ふざけるなって怒鳴りつけてやりたい程、腹立ってるのは事実だけど、まぁそれは言っても仕方ないことだから。でも・・・。』


「でも?」


『アイツにずっと言いたいことがあったのは、梓だけじゃないんだよ。』


「美里・・・。」


その言葉に驚く私に


『言っとくけど、あんたが振られたから、今度は私がなんて、思ってるわけじゃないから。澤城なんて、こっちから願い下げだし。』


と笑う美里。


『でも、どうしても、アイツと話したいことがあるんだ。』


と言う美里の言葉には、力が籠もっていた。