「で、どうする?」


「えっ?」


「えっ、じゃねぇよ。どこに行くんだよ。話があるって言ったの、そっちだろ?」


いきなり、畳み掛けられて、私はドキマギする。


「よかったら、お夕飯でも一緒にどう?このビルの中に、美味しいパスタのお店があるんだけど。」


「悪いけど、夕飯は家で食べる。もう妹が用意しちまってるはずだから。そんなじっくり話すつもりとは、思わなかったから、いらないって言って来てねぇよ。」


思わぬ返事に、私は固まる。この時間だから、一緒に食事を、私は当たり前のようにそう思っていたのだが、澤城くんは、「私の話」をとっとと聞いて、帰宅するつもりだったらしい。


私にあまり好意を持ってないってこともあるだろうけど、人と必要以上に、接触を持ちたがらない澤城流に対する、私の認識が甘かった。


「そ、そっか。そうだよね・・・。じゃ、とりあえず、お茶でも飲もうか。」


仕方なく、やはりこの建物の中にあるカフェを目指して、歩き出す。


いろいろな四方山話を交えつつ、話を進めるつもりだった私は、いきなり直球勝負に出ざるを得ない状況に追い込まれ、緊張感は急激に高まっていた。


お店に入り、コーヒーを注文した私達は、改めて向かい合う。このシチュエーションは、やはり私にとって、かなり厳しい状況。好きな人を目の前に、鼓動は高鳴り、澤城くんの顔をまともに見ることが出来ない。 


一方の澤城くんの方も、なにやら落ち着かない様子。お世辞にも好意を持ってるとは言えない元クラスメイトと、2人きりになって、居心地の悪さを感じているのだろう。


「お夕飯、交代で作ってるの?」


何か言わなくっちゃ。必死に話題を探していた私の口から出たのは、そんな言葉だった。


「ああ。兄妹3人でローテーション組んで。もっとも俺も試用期間終われば、普通に残業とかこなさなきゃならないだろうし、弟も今、就職活動中だから、そのうち見直さなきゃならないだろうな。」


「お母さんは?」


澤城くんのお父さんは、彼が小学生の時に亡くなっている。


「オフクロは俺が大学に入ってすぐに亡くなった。婆ちゃんも一昨年亡くなって、今は兄妹3人で暮らしてる。」


「そうだったの・・・ごめんなさい。ちっとも知らなくて。」


「いや。」


話題が思わぬ方向に転がってしまい、場の空気がすっかり重くなって、私は内心、頭を抱えた。