チャイムが鳴った、お母さんが出る


「いらっしゃい、お待ちかねですよ。」


間違いなく彼だ。招き入れ、玄関に立つ彼。手土産を渡した後、お母さんとは久しぶりだから、少し話をしている。


上がって、お茶でもと誘うお母さんに、彼はまた改めて、ゆっくり伺いますからと答えている。お父さんがお祭りの役員になってて、不在だから、遠慮してるのだろう。


その会話が一段落したのを見計らって、私は玄関に降りて行く。


「ヒロくん、今日はありがとう。」


そう言いながら、ヒロくんの前に出て行った私を見て


「お待たせ。」


って一言言うと、なぜか固まっている。


「どう、かな?」


ちょっと照れ臭かったけど、何か感想を言って欲しくて、私はそう聞くけど


「あ、ああ。似合ってる。」


とポツンと言うと、お母さんに視線を向けて


「すみません。じゃ行ってきます。」


と挨拶して、クルリと背を向けた。


「行ってきます。」


そんな彼の様子を見て、私も慌てて、後に続いた。


一緒にお祭りに行かない?私からそう誘ったのは、先週のデートの時だった。


「ああ懐かしいな。小さい頃は翔真や弟達と毎年行ってたなぁ。」


高校に入って、すぐに引っ越して行ったヒロくんにとっては、最後に行ったのは、もう10年以上前になるはずだった。


私の誘いに、彼は嬉しそうに頷いてくれたはずだった。だけど今、私達の空気は何故かぎこちない。


気が付くと、ヒロくんはいつもよりゆっくり歩いている。慣れない恰好の私が歩きにくいだろうと歩幅を狭めてくれてるみたい。その心遣いが嬉しかったけど、でも会話が弾まない。


(どうしたの?ヒロくん。)


私は不安になって、彼の横顔をそっと見つめる。