「ヒロくんなら、どっかで1人で食べてると思うけど・・・。」


という私の答えに


「はぁ?」


何言ってるの?と言わんばかりの声を出した千尋は、少し辺りを見回すと


「アイツ、何考えてるの?梓、おいで。」


と言って、私を促すとツカツカと歩き出した。


今朝から、ヒロくんとは、朝の挨拶は交わしたけど、それっきり接点がないまま。お昼も誘われず、誘わず。それを特になんとも思ってなかったんだけど・・・。


「ちょっと、サワ。あんた、一体何考えてるの?」


突然降って来た怒声に、びっくりして顔を上げたヒロくんは


「なんだ内田か。どうした?」


と答えるけど


「あんたねぇ、愛しの彼女が勤務復帰初日から目の回るような忙しさで、やっとお昼休みになったのに、放ったらかして、1人でご飯食べてるって、どういう神経?」


と噛み付く千尋に


「いや、昼休みはどうせお前達と積もる話もあると思ってさ・・・。」


と目を白黒させながら言い訳するヒロくん。


「信じらんない。あんたの辞書にはデリカシーって文字がないの?」


「いや、ちょっと待ってくれよ・・・。」


なんかふと、中学の時、私のラブレターを無視したヒロくんに、憤慨した美里が怒鳴り込んでくれた時のことを思い出したけど、あの時と違って、ヒロくんはタジタジ。


「千尋、ありがとう。でもヒロくんも悪気があったわけじゃないみたいだし・・・。」


気の毒になって、私が庇うように言うと


「梓は優しいなぁ。何度も言うけど、こんな奴のどこがいいんだか・・・。」


ため息混じりにそう言う千尋に


「せっかくだから、3人で食べようよ。ヒロくん、いいでしょ?」


「あ、あぁ・・・。」


「じゃ。」


ニコニコしながら、そう言って席に着く私を見て


「サワ、お願いだから、梓を大事にしてあげて。」


と呆れ半分、お願い半分で千尋は言う。


「本当に大丈夫だよ、ちゃんと大事にしてもらってるから。ね、ヒロくん。」


「あ、あぁ・・・。」


なぜか曖昧な返事のヒロくんに、千尋は思わず、ため息をついていた。