「じゃ、澤城くんは、私が意識を失ってる間、なんで毎日のようにお見舞いに来てくれてたの?」


「・・・。」


「私が意識を取り戻した時、側に居てくれたのは偶然だったんだと思う。でもあの時、私の身体に縋り付いて、泣いてくれたのはなんだったの?あの時、澤城くん、私のこと、なんて呼んでくれた?『石原』なんて、他人行儀な呼び方じゃなかったよ。意識を取り戻した直後の幻聴だろうなんて、言わせないからね。」


気が付いたら、私は一気にまくしたてていた。でも・・・何も言ってくれない澤城くん。また沈黙が流れる・・・。


「わかった、もういいよ。」


これ以上、澤城くんの顔を見るのが辛くなって、私は彼から顔を背ける。


カチャリ、ドアが開く音がする。彼が病室から姿を消したのが、はっきり感じられ、私の目からは涙が溢れる。


「ちょっと、サワ!」


外から千尋の声がする。去って行く彼を呼び止めようとしてくれたのだろうけど、たぶん彼は振り向きもしなかったんだろう。


「梓!」


慌てて入って来た千尋は、肩を震わせ、泣いている私を見て、足を止める。 


「なんで梓が泣いてるの?なんで、サワ帰っちゃったの?」


ようやくそう呟くように尋ねる千尋に、私は何も答える気にもならずに、ただ泣いていた。


「梓・・・。」


そんな私に、掛ける言葉もなく、千尋は私の背中をただ優しく撫ででくれる。さっきとは逆転して、私は千尋の胸で泣いた。


この日は、両親は親戚の法事で出掛けていて、美里もデート。他に見舞い客もなく、千尋は途中で席を外した時間もあったけど、結局夕食まで、一緒に居てくれた。


「じゃ、また来るからね。」


私が食事をし始めたのを見届けて、千尋はそう言って、帰って行った。彼女の残してくれた笑顔が嬉しかった。