私達は少し向かい合って、黙っていたけど


「疲れたでしょ。横になったら。」


と千尋。


「ううん、大丈夫。だけど、座ろうか。」


と私が返して、私はベッドに、千尋はその横の椅子に腰掛けた。


「元気そうでよかった。課長や木村さん達からは、そう聞いてたけど、実際この目で見ると・・・安心したよ。」


「ありがとう。千尋こそ、私の分まで、ずっと仕事頑張ってくれてるって、課長から聞いてる。いろいろ迷惑掛けて、ゴメンね。」


「そんなこと、ないよ・・・。」


ぎこちない会話がここで途切れる、お互い目も合わせないまま・・・。流れる沈黙、なにか言わなくちゃ、私がそう焦っていた時だった。


「梓、ゴメン。ごめんなさい!」


そう言って私に、深々と頭を下げる千尋。


「千尋・・・。」


「梓が目を覚ましたって聞いて、本当に嬉しくて、すぐにでも飛んで来たかった。この手で梓を抱きしめて、いっぱいいっぱい謝ろうと思った。でも、なかなか病院に来る勇気が出なくて・・・。梓に会うのが怖くて、梓に憎まれることに耐えられなくて、ずっと逃げて来たんだ。ごめんなさい・・・。」


そう言って、泣きじゃくる千尋を、私は少し見ていたけど、そっと彼女の身体を抱きしめた。


「梓・・・。」


ハッと身体を固くする千尋に、私は言う。


「会いたかったよ、千尋。毎日のように来てくれてたんだってね。美里から聞いたよ。嬉しかった、ありがとう。」


「なんで、そんな優しいこと言うの?私は、梓のこと裏切って、傷つけて、大ゲンカしたじゃない。挙げ句の果てに、危うく死なせるところだったんだよ。それなのに、なんで・・・。」


「そうだったっけ?」


「えっ?」


「事故の時、頭打ったからかな?なんか一部記憶がないんだよね。」


「梓・・・。」


「特に嫌なことの記憶が、ね。」


そう言って笑った私の顔を見上げた千尋は


「梓のバカ、お人好し!」


とまた涙。そんな千尋に


「早く元気になるからね。だからまた一緒にお仕事、頑張ろうね。あとさ、GW、美里と3人で旅行に行こうよ。」


「梓・・・。」


「約束だよ。」


と言うと、コクンと頷いた千尋は


「梓、ありがとう・・・これからもよろしくね。」


と言って、しばし私の胸で泣いていた。