「覚えてるか?」


少しして、顔を上げた小笠原さんは、言った。


「まだお前にコクる前だったかな。澤城はなんであんなに人嫌いになっちまったのかなぁって話をしたよな。」


「はい。」


「その理由がわかったよ。」


「えっ?」


突然、そんなことを言われて驚いてしまう。


「アイツは人付き合いが苦手なのは確かだが、人が嫌いだったんじゃない。人と必要以上に親しくなるのが、怖かったんだ。」


「・・・。」


「もちろんそれには、理由があった。まぁ一種のトラウマのようなもんだ。聞いて、無理もないという気もしたよ。」


「そうですか・・・。」


なんと返事をしていいかわからない私。


「そのアイツのトラウマをどうやら、お前が払拭したことになったようだ。」


「私が?」


「そうだ。お前が目を覚まして、帰って来てくれたお陰でな。」


話が全く見えず、キョトンとする私に


「まぁ、いきなり言われてもわかんねぇよな。あとは、本人と話せよ。」


と笑いながら言った小笠原さんは、その後、表情を引き締めると


「心が狭いかもしれんが、俺は澤城を応援するつもりはない。石原を傷つけた罰として、一回引くが、俺はまだお前を諦めたわけじゃないから。そのつもりでな。」


「小笠原さん・・・。」


「ともかく、だ。早く戻って来い。お前のいないオフィスは寂しいし、味気ない。俺にはお前が必要なんだ、マーケティング課長としても、小笠原個人としても、な。」


「はい、ありがとうございます。」


私がそう言って頭を下げると、小笠原さんはニコリと笑った。