翌日、小笠原さんが姿を現したのは、そろそろ夕食が終わろうとしている頃だった。


「小笠原さん。」


上司の姿に慌てて姿勢を正すと


「そんな畏まらなくてもいいよ。」


と苦笑い。


「食べ物は特に制限ないんだろ。甘い物買って来たから、いっぱい食べて、早く元気になれ。みんな待ってるぞ。」


「ありがとうございます。」


そして、小笠原さんは、ベッドの横の椅子に腰掛けた。


「1人なのか?」


「はい。母にも今日は、早めに帰ってもらいました。ずっと大変な思い、させてしまいましたから。」


「そうか、そうだな・・・。」


その後、少し見つめ合った私達だったけど


「石原。」


と2人きりなのに、苗字で呼び掛けられて、思わずハッとした。


「よかったな。」


そう言って、微笑む小笠原さんに


「ありがとうございます。いろいろご心配をお掛けして、申し訳ありませんでした。」


そう言って頭を下げる私に


「お前が無事・・・ではなかったが、とにかく目を覚ましてくれて、今、こうやって話が出来る。それが何よりも嬉しいし、ホッとしてる。あのままじゃ、辛すぎるしな。」


「小笠原さん・・・。」


「後悔してもし切れない。あの日、お前とちゃんとデート出来てたら、少なくとも、お前をこんな目に合わせることはなかった。すまなかった。」


「いえ、そんな・・・。」


頭を下げる小笠原さんに、私は慌てて首を振る。また少し、沈黙が流れる。そして、私は言った。


「正直に言います。本当は、あの日のデートで、正式にお付き合いさせて下さいって、お返事するつもりでした。」


その私の言葉に、小笠原さんは驚いたような表情になる。


「だけど・・・。」


と言いかけた私を遮るように


「そうか・・・痛恨のミス、だったんだな・・・。」


そう言って、小笠原さんは目を伏せた。