仕事始め、年内は仕事を休んでいた石原のお父さんも、この日から仕事に復帰することになった。


病院に付き添っているお母さんの負担が、ますます重くなってしまうが、これは親戚の人達が、協力してフォローして行くことになったそうだ。


ウチの会社も、今日から仕事始め。部長や課長の挨拶は、当然のことながら仕事関連のことばかりで、石原のことについては、特に触れられることはなかったが、状況はみんな知っていて、空気は重い。


それでも仕事は待ってはくれない。現実に石原の穴は埋まってはいない。石原の空いた席、更には彼女がくれたマグカップに目をやると、俺は仕事に取り掛かる。


仕事が終われば、極力石原の病院に回る。お忙しいのだから、そんなに毎日来てくださらなくとも、彼女のお母さんは恐縮するが、いえ、石原の顔が見たくて来ているので、お気になさらずにと答える。


内田も例え、5分でも10分でもいいから梓に会いたいとやはり足繁く通っている。同行する機会も増え、あれだけ仲が悪かった俺達が、気がつけば、普通に話せるようになっていた。


もう一人のレギュラーはもちろん小川で、小川は内田に対してはかなり厳しい感情を持っていた。実際修羅場みたいなこともあったようだが、それを経た後は、下の名前で呼び合うような仲になった。


今回の事態の、思わぬ副産物だったが、それを喜ぶ気には当然ならない。


七草、成人式・・・と1月が過ぎて行く。しかし、石原の意識は戻らない。


生命維持装置で永らえてるわけじゃない。彼女は自力で呼吸をしているのだ。


「なんで目を覚ましてくれないんだ。」


回診に来た医師がある日、思わずそう呻くように言ったらしい。


点滴で栄養は入れているが、人間は口から物を入れないと、だんだん痩せて行く。ただでさえ、華奢と言ってもいい石原の身体が、徐々に細って行く。


それが石原が生きる為に、良いことであるはずがなかった。