廊下に出た俺達。課長の顔色は冴えない。


「どうしたんですか?梓、助かったんでしょ?」


不安を隠せず、そう問う内田を見て、課長は徐ろに口を開く。


「さっきも言った通り、ICUから出られて、よほどの急変がない限り、当面の危機は脱したそうだ。ただ・・・。」


「ただ?ただ何なんですか?」


「・・・意識がいつ戻るか、全く目処がたたないらしい。」


課長の言葉に、息を呑む俺達。


「あくまで可能性だが、結局、意識が戻らないままということもあり得る。」


「そんな・・・。」


「意識が戻ったとしても、どんな後遺症が石原に残ってしまうか、あるいは完全に回復するか、それは石原が目覚めてからじゃないとわからない。医者はそう言ってるらしい。」


「そんな無責任な話が・・・。」


ようやく憤りの声を上げた俺に


「医学的には出来うる最大の手を尽くしたんだそうだ。後は無責任に聞こえるかもしれないが、患者の生命力と運・・・なんだそうだ。」


そう告げた課長の声も、やり切れなさに溢れていた。


バコッ、次の瞬間、俺は壁をぶん殴っていた。当たり前だが、痛みが右拳に走る。だけど、その痛みが余計に俺の中の怒りを増幅させる。


「今はこんなとこで壁に八つ当たりして自爆してる場合じゃねぇだろ。」


そんな俺の姿を見て、課長が窘めるように言う。


「行ってやれ。」


「えっ?」


「石原の所へ。」


「課長・・・。」


その課長の言葉に、俺は思わず下を向いた。