石原の容態は、日曜日も変化がなく、週が明けた。


病院には、石原の両親が詰め、あとのみんなは後ろ髪をひかれる思いで、それぞれの職場、学校へ向かった。


思えば、今年もあと1週間余り。仕事納めに向かって、ラストスパートというところだが、石原の姿の見えないオフィスは、なんとなく寂しく、活気に欠けているように思うのは、俺だけだろうか。


石原の担当していた仕事は、当然みんなでカバーしていかなくてはならなかったが


「梓の穴は私が埋めます、私にやらせて下さい。」


と鬼気迫る表情で、課長に迫っていた内田にその多くが割り振られた。


石原のことは、昼休みまでには、ほぼ本社内に伝わり、隣の課の連中や彼女の同期生達から問い合わせが相次いだが


「意識不明の重体で、現在ICUに。」


と答えると、みな一様に表情を曇らせ、中には涙ぐむ人もいる。


普段はぼっちの昼休みを過ごしている俺の周りに、珍しく人が代わる代わる現れる。石原と同じ課であるだけでなく、中学時代のクラスメイトであることは、知られているから、問い合わせが親友の内田と共に集中するのは仕方がないこと。


もっとも、石原に何か変化があれば、連絡が入るのは、俺や内田にではなく、当然課長宛になる。普段はそんなことは思ったこともないが、今日は課長のデスクの電話が鳴る度に、ビクッとさせられ、そんな落ち着かない1日があっと言う間に過ぎて行く。


「梓のことは心配だけど、今の私がしなきゃならないのは、梓の穴を埋めることだけ。澤城くんは、もういいから、梓の側に行ってあげて。」


定時が来た途端、今までは、あんた呼ばわりが関の山だった内田からいきなり、くん付けで呼ばれて、面食らった。


石原に対する俺の気持ちを知っているからこその配慮だったが、やっぱり俺には今、石原を見舞う勇気は出なかった。