「なぁ、兄貴。」


少しして、弟が口を開いた。


「兄貴にとって、俺と栞菜って、何なんだ?」


「えっ?」


「俺達は・・・兄貴の言う『大切な人』『愛する人』の中には入らないのか?」


「健吾・・・。」


「それとも俺達も、もうすぐ死んじまうのかな?」


そう言って、俺を見つめる健吾に、何も言えなくなる。


「兄貴の言う通り、人間誰でもいつかは死ぬんだけどさ。まぁ俺も栞菜もとりあえずまだ、当分は死なないつもりだから。あんまり思い詰めるなよ。」


そう言って笑う弟。


「サワ、さっきは引っ叩いたりしてゴメン。あんたがそんなこと考えてるなんて、思いもよらなかったから・・・。私は笑わないよ、あんたがそんな気持ちになっても不思議じゃないと思っちゃったよ。でもさ今、弟くんも言った通り、全部がサワのせいなんて、あり得ないから。」


「・・・。」


さっきとは打って変わった小川の優しい表情と口調。


「それでも病院行くの、気が進まないんなら、無理にいいよ。それは私達に任せて、あんたはここから梓のこと、祈ってくれればいい。あんたが、やっとさっき認めたこと、ちゃんと梓に直接伝えられるように、ここで精一杯祈るんだよ。」


そんな小川の言葉に、つい涙腺が崩壊しそうになって、俺は思わずソッポを向いてしまう。


「兄さん、私のあげたマグカップ、使ってる?」


そして今度は、妹が場違いのことを聞いて来る。でも・・・。


「あのカップは、本当は私からのプレゼントじゃない。選んだのも、買ったのも梓ちゃん。」


「えっ?」


その妹の意外な言葉に、俺は驚く。


「あの頃、兄さん仕事うまく行かなくて、悩んでたよね。梓ちゃん、心配してたけど、ちょうどなんかその時、兄さんと気まずくなっちゃってるから、私からってことにして、渡してくれないかなって、言われて。」 


そうだったのか・・・。


「梓ちゃん、兄さんを励ましたかったんだよ。私がいつも側にいるから頑張ってって。妹として、そんな梓ちゃんの兄さんへの気持ち嬉しかった。今度は兄さんが、そんな梓ちゃんの思いに応える番じゃない?」


妹のそんな言葉に、俺は素直に頷いていた。