俺は石原の両親とは初対面だから、挨拶を交わす。見るからに穏やかそうな2人の沈痛な表情には、胸が痛んだ。


そう言えば、課長は2人になんて挨拶したんだろう。上司であることは間違いないが、付き合ってるとか言ったのかな?なんてことを気にしてる場合じゃねぇな・・・。


するとパタパタとまた、病院の注意を無視して、近づいて来る足音が。誰かと思えば


「内田。」


俺が驚いていると


「俺が連絡した。」


と課長。俺が何とも言えない気持ちになっていると、目にいっぱい涙を溜めた内田が


「ごめんなさい!」


と俺達の前で廊下に跪くように崩れ落ちた。


「私がバカなことを企まなかったら、梓はこんなことにならずに済んだ。ごめんなさい、ごめんなさい・・・。」


手術室の石原に詫びる内田の姿に、かつての自分の姿が重なり、俺は目を背ける。


その後、内田は石原の両親、小川、更には俺達にまで謝って来たが


「内田、もういい。」


課長が宥めるように、それを制して、内田のお詫び行脚はようやく止まった。


私がチョッカイを出さなかったら、石原は予定通り課長とデートしていたはずで、だとしたら事故にも遭わなかったはず。


内田はそう言いたかったんだろうが、事情がわかってない両親は困惑気味だったし、逆にその意味を察した小川の内田への視線はゾッとするくらいに冷たかった。


内田が落ち着くと、俺達は口を開く者もなくなり、重苦しい空気が漂う。


中で何が行われているのか、石原の容態はどうなのか、外からは全く窺い知るべくもなく、焦燥と苛立ち、不安が募るばかりだった。