「10年ぶりに会った石原は、びっくりするくらいにキレイな大人の女性になってた。気遣いが出来て、優しくて、仕事にも真摯に取り組んで、上司の信頼も厚くて。」


「・・・。」


「かつてクラスメイトだった彼女が、とても大きく、遠い存在に思えた。その思いは、再会以来、ずっと変わらない。この子の横にいるべきは、少なくとも俺じゃない。そうとしか思えないんだ。そして、小笠原課長が現れ、2人を並べて見た時、『すげえお似合い』としか思えなかった。」


「いい加減にしてよ!」


俺の言葉を遮るように、小川は言う。


「なんでそんなこと、勝手に決め付けるのよ。あんたが1人で卑屈になって、いじけるのは自由だけど、梓の気持ちはどうなっちゃうわけ?」


「小川・・・。」


「梓はね、そんな意気地なしのあんたでも、やっぱり好きなんだよ。正直、なんであんたをそこまで想えるのか、さっぱり私にはわからない。『サワのどこがいいの?』って私、本当に何度、梓に聞いたかわかんないよ。納得出来る答えをもらったこともない。でも、小学生の時から、今に至るまで、その間に2度も振られて。それでも梓は、サワのことが好きなんだよ。そんな梓の一途な思いから、どうしてあんたは逃げることしか考えないの?どうして、向き合おうともしてくれないの?」


小川のまっすぐな言葉に、俺が言葉を失い、やや俯いてしまった時だ。


小川の携帯が鳴り出した。慌てて、バッグから携帯を取り出して


「親だわ。ゴメン、ちょっと待ってて。」


俺にそう断って、電話に出た小川は


「もしもし、どうしたの?・・・えっ?」


電話の向こうの声に、一瞬驚いた表情になったが、すぐに笑いながら


「変なこと言わないでよ。だって私、さっきまで・・・。」


と答えたが、その表情はすぐに固くなり


「・・・わかった。とにかく、すぐ行ってみる。」


と言って電話を切った。


「サワ・・・。」


そう言って、俺の方を見た小川の顔は、なぜか顔面蒼白になっていた。