「どういうことですか?千尋が・・・私にウソをついたって言いたいんですか?」


戸惑いながら聞く私に


「そうだ。」


とはっきり頷いた小笠原さん。


「でも・・・忘年会の二次会の途中で2人でいなくなったって・・・。」


「それは事実だ。内田から、折り入って話があるから抜けませんか?と言われて、2人でカラオケボックスを出た。近くにいた木村さんには、出ることを伝えたんだが、彼も酔っぱらっていて、よく覚えていなかったらしい。」


「・・・。」


「どうしたんだと尋ねたら、静かな所で話しましょうと言われ、その・・・寒かったし、適当な場所もなかったんで・・・ホテルに入った。」


(なに、それ?)


思わず心の中で、そうつぶやいてしまう。その声が聞こえたかのように、小笠原さんの釈明が続く。


「確かに軽率だった。だが酔っていて、正常な判断が出来なかった。」


「・・・。」


「少し話していたが、内田が気分が悪くなったと言って、横になった。それで、俺は・・・そのまま部屋を出た。カラオケボックスへ戻ればよかったんだろうけど、面倒くさくて、近くのネカフェで始発を待ったんだ。」


そんな言い訳を信じる方がどうかしてる。私が呆れた表情になると


「嘘じゃない。確かに証明は出来ない。だけど、俺は誓って、内田には何もしてない。一昨日も呼び出されて、今度は正式に告白されたが、俺は断った。梓がいるから、今はアイツだけを見ているから。そうハッキリ言った。梓、俺の行動は軽率だったし、疑われても仕方ない。逆に信じろという方が無理だと思う。だが・・・俺は本当に嘘はついてない。頼む、信じてくれ!」


そう言って、頭を下げる小笠原さんを私は冷ややかに見ていた。小笠原さんに対する好意や尊敬の念がみるみるうちに自分の中から失われて行くのが、ハッキリ自覚出来た。


「ごめんなさい。今のあなたの言葉を何の疑いもなく、受け入れられるほど、私も無邪気じゃありません。」


「梓・・・。」


「明日のお約束は・・・なかったことにして下さい。」


そう言うと一礼して、私は席を立った。


「梓、ちょっと待ってくれ。」


慌てたような小笠原さんの声に、しかし私は振り向くことはなかった。小笠原さんは・・・追いかけては来なかった。