澤城くんに、お先にと告げて、会社を出た私が駅に向かおうとすると


「梓さん。」


と声を掛けられた。振り向くと、もうとっくに帰ったはずの和美ちゃんの姿が。


「どうしたの?」


驚く私に


「待ってたんです、梓さんを。お話が・・・あります。」


少し躊躇いがちに、でもまっすぐに私を見て言う和美ちゃん。


「それでわざわざ待っててくれたの?会社じゃ話せないこと?」


そう尋ねる私に、コクリと頷く和美ちゃん。残業で何時になるかわからなかった私を、ずっと待っててくれたことになる。よほどの話だと思わざるを得ず、私も緊張して来る。


「寒かったでしょ、どこか入ろう。」


と誘う私に頭を振って、ちょっと周りを見回したあと、和美ちゃんは言った。


「差し出がましいことをお聞きするようですみません。あの・・・梓さんと課長って、実際はどんなご関係なんですか?」


「えっ?」


「その・・・いわゆるカレカノなんですよね?」


会社の人に改めて聞かれて、私は返答に一瞬困ったけど


「お付き合いしてるのは確か。毎週のようにデートして頂いてるし、好きだと言って頂いてる。でも・・・私がまだちゃんと小笠原さんにお返事出来てないって言うのが本当のところなの。」


と正直に答えた。


「そうだったんですか・・・それは梓さんが課長に対して、何か不安を感じてる、からですよね?」


「そういうわけじゃないんだけど・・・あのさ、前にも話したけど、私、男の人とキチンとお付き合いするのって初めてだから・・・つい慎重になっちゃって・・・。小笠原さんには申し訳ないことしてるよね。でも・・・今度の土曜日のデートの時には、ちゃんとお返事しようと思ってる。なんて言ってもクリスマスデートだもんね。」


後輩にこんな告白するのは、恥ずかしかったけど、真剣に聞いて来る和美ちゃんに、つい本音を答えてしまう。


「答えはイエスってことですよね。」


「・・・うん。」


はにかみながら、そう答えた私に


「考え直した方がいいと思います!」


と和美ちゃんは訴えるように言う。


「和美ちゃん・・・。」


真剣な表情で、そんなことを言う和美ちゃんを、私は思わず見つめてしまっていた。