あの時の私への態度で、みんなの耳目を引いた形の澤城くんだったが、その後は特に目立つ行動や態度を示すことはなかった。


院卒の彼は、同期はほとんどが年下だし、私のような同年の先輩、あるいは年下の先輩もいて、面倒な人間関係を強いられてる部分はあったろうが、あの時以外は、必要な敬語は使い、穏やかに勤務に就いていた。


私に対しても、あの時以外は特に何もない。あの後、訂正した資料を彼に持って行った時も


「おぅ。」


と一言言って受け取っただけだったし、その後は、顔が会えば、目礼くらいは交わすし、「おはよう」「お疲れ様」の挨拶もタイミングが合えば、するようになった。


ただ、久しぶりだね、なんて会話に発展するような雰囲気には全くならない。


それは他の人に対しても同様で、昼食も最初のうちは同期や教育係と一緒に摂っていたが、今はもう基本的には1人で食べてるみたい。仕事が終わると、サッサと退社。


業務上のコミュニケーションは、キチンと取っているようだったけど、必要以上の交わりを周囲と持とうとしない彼の態度は、私の知ってる中学生の時の彼の姿と全くと言っていいほど、変わっていない。


あの当時の彼も、休み時間は1人静かに、読書をしていて、友達と校庭で遊んだり、会話を交わしたりという姿を見た記憶がほとんどない。


(変わってないね、澤城くん。)


私は心の中で、そう呟いていた。