小川から連絡が来たのは、その日の遅くなってからだった。俺達が席を立ってからすぐに、彼氏が謝って来たんだそうだ。


彼氏の方も、小川との距離の縮め方がわからずに、悩んでいたところに、彼女が他の男と会っていたと聞いて


『ああ、俺とうとう愛想つかされちゃったんだ。』


と思ったら、頭が真っ白になっちゃって、もう自分が止められなくなっちゃったらしい。


俺は美里が好きだ。いい歳して、好きな女への向き合い方もわからなかった、許して欲しいと頭を下げられ、小川も泣き笑いの顔ではい、って答えて、2人の心は無事通じ合ったそうだ。


世の中、ウチの課長みたいに自信満々の男ばかりじゃないんだなと、いささか胸を撫で下ろしながら、俺は小川によかったな、と伝えた。


『サワにまた借りが出来ちゃったな。』


「なんか、お前に貸しがあったか?」


『サワのお陰で翔真くんに謝れたこと、私忘れてない。そうじゃなきゃ、結果として、私は翔真くんに謝ることも出来ないまま、一生後悔しなきゃならなかった。』


「そっか・・・。」


『サワ、本当にありがとう。私、あんたに頭上がんないよ。』


なんて、柄にもなく神妙な声で言って来る小川に、照れ臭くなった俺は


「じゃ、今度なんかデッカイ恩返しを期待してるぜ。」


と冗談めかして答えると電話を切った。


翌朝、石原が


「昨日はお疲れ様。美里、よかったね。」


と声を掛けて来て、少し話していたら、また課長に睨まれて、あぁコイツも本当は口ほど自信家じゃないのかも、なんて思ってしまったのは内緒。


そうこうしているうちに、我が部の忘年会の日がやって来た。