「まずかったかな。」


カフェを出たあと、俺は石原に聞いた。


「何が?」


「小川の愚痴、もろに先輩に言っちまったの。」


その言葉に、石原は静かに首を振った。


「大丈夫、美里が好きになった人なんだもん。ちゃんと伝わるよ、美里の気持ちも澤城くんの思いも。もしそうじゃなかったら、この時点で壊れちゃった方が美里の為だよ。」


そう言って、俺に微笑み掛けてくれる石原はとてつもなく可愛くて、抱きしめたくなる衝動を抑えるのに苦労する。


「でもさ。」


「うん?」


「前から思ってたんだけど・・・澤城くんって、本当にコミュ障なの?さっきの澤城くん見てたら、とてもそうは思えないよ。」


「その為に、仕事でやらかしてるの、何度も見てるだろ。」


「そっか。」


「そっかじゃねぇよ。」


顔を見合わせて笑う俺達。


「でもまぁ、初対面の先輩に対して、よくあんなこと言えたな、とは確かに思うな。我ながら。」


と照れ笑い混じりで呟いた俺の顔を、石原は少し眺めていたけど


「澤城くんは、美里のことが好きなんだね。」


「えっ?」


「ラブかライクかは、ともかくとして。」


その石原の言葉に、少し驚いた俺は


「どうかな?少なくとも今年の春までは、小川のこと、大っ嫌いだったからな。」


と冗談めかして返したけど


「羨ましいな、美里が。」


とポツンと呟いた石原。


「石原・・・。」


俺は思わず石原を見る。一瞬、見つめ合う形になったけど


「さ、行こう。明日も仕事だ。」


と言って、俺にニコリと微笑んで見せると、石原は歩き出して行った。