あれから、小笠原さんはもう、私が同期達とランチすることを許してくれなくなった。社食だけでなく、会社近くのレストランや居酒屋にも行くようになった。


そこでも、いろんなお話をした。勤務の合間だから、仕事の話も少なくなかったけど、他の話もした。小笠原さんは私に、自分のことをもっと知ってもらおうと、懸命なのが、私にも伝わって来た。


もう猫かぶった俺じゃないから。そう言われて、強引にいろいろ迫られたりしちゃうのかなって、ちょっと身構えたけど、今のところはそんなに変わった気はしない。


4回目の週末デートは


「俺の趣味に付き合ってもらう。」


とサッカー観戦に誘われた。小笠原さんは高校までサッカーをやっていて、前の彼女さんはマネージャーだったんだって。


「俺は万年補欠。そんな奴がマネージャーと付き合い始めたって、随分風当たりも強かったけど、そんなこと言われたってな。」


そう言うと、小笠原さんは苦笑いしてた。私はサッカーにはほとんど興味なかったけど、小笠原さんにいろいろ解説してもらい、そのライブの迫力に引き込まれて、結構興奮して、グラウンドを見ていた。


「サッカーって、こんな楽しいものとは思いませんでした。ありがとうございました。」


試合が終わり、少し早めの夕食を摂りながら、私は言った。


「そうか、梓がそう言ってくれると嬉しいな。」


と答えた小笠原さんの顔は、本当に嬉しそうだった。


「俺は子供の頃からサッカーが好きで、でも好きこそものの上手なれってわけにはいかなくってな。高校で自分でやるのは完全に諦めた。でもあの雰囲気、あの迫力は忘れられない。俺はサッカーの魅力にどっぷりハマったままだ。」


「はい。サッカー見てた時の小笠原さんの顔は、本当に輝いてて。サッカーがお好きなんだなって、思って見てました。」


「俺のこと、見てくれてたのか?」


突然、そんな風に言われて、見つめられてしまって


「は、はい。すみません。」


と思わず謝ってしまったけど


「そりゃ、光栄だな。連れて来た甲斐があった。」


と言われて、恥ずかしくなって、俯いてしまった。