驚いた。確かに、あの時から帰りのクルマの中、そしてLINEでも彼は「梓」と私のことを呼んだ。そのことを私も、もう拒もうとは思わなかった。


だけど今日は午前中、何度も業務上の会話を交わしたけど、これまで通りの態度と「石原」呼びだった。なのに、いきなり・・・。


「迷惑だったか?」


初めて社食で向かい合いながら、小笠原さんはいたずらっぽく笑った。


「迷惑とかじゃないですけど・・・とにかく驚きました。」


と答えた私の口調はちょっと怒ってたのかもしれない。


「ハハ、怒るなよ。」


「怒ってませんけど・・・まずくありませんか?」


「なんで?」


「会社で私達の仲が知られてしまうのは、ちょっと早過ぎると思います。」


遅れてやって来た千尋が、同期達とヒソヒソこちらを見ながら、話してる姿を横目で見ながら、私は言う。


「私達の仲って?」


「えっ、だから、その・・・。」


改めて小笠原さんに正面から聞かれて、言葉に困ってしまう私。


「自分で言っといて困るなよ。」


そんな私を笑う小笠原さん。


「まぁ毎週デートしてるけど、俺はまだお前を落とせてない。付き合ってるとは、残念ながら言えない現状。」


「・・・。」


「それを打破しようと思ってな。」


「だからって・・・。」


「安心しろよ。仕事中と休憩時間を含んだその他の時間のケジメはちゃんとつけるさ。」


そう言って、また自信たっぷりに笑う。


「それに・・・澤城への宣戦布告でもある。」


「えっ?」


「アイツにコソコソ隠れて、梓とデートしてるのも、なんか悔しいからな。」


「澤城くん、知ってましたよ。」


「なに?」


「澤城くんは、私達のこと、もう知ってました。」


そう言うと、驚きの表情で、私を見る小笠原さん。


「話したのか?」


「そんなわけないじゃないですか。私達のこと、なるべく隠した方がいいと思ってたんですから、千尋にも話してません。でも・・・なぜか澤城くんは気付いてました。あの台風の日、あなたとLINEしてたら、相手は課長だろって、はっきり言われちゃいましたから。なんでなんですかね・・・?」


そう無邪気に言った私の言葉を聞いた小笠原さんの表情は、厳しくなっていた。