「今夜は帰さない、ずっと一緒にいろ。いいな。」


「えっ?」


「本気だからな。どうやら俺は柄にもなく、お前には優しくし過ぎたみたいだ。俺は自分の欲しいものは必ず手に入れる主義なんだ。その為には、手段は選ばん。じゃなきゃ、先輩や同期を出し抜いて、課長になんかなれんよ。」


そう言って、ニヤリと笑う小笠原さん。突如豹変した小笠原さんが信じられなくて、思わず後ずさりするけど、腕をガッチリ掴まれてしまう。


「来い!」


「いや、離して!」


「だったら、ここに置いてくぞ。1人で帰れよ。」


「酷い・・・最低!」


この人、こんな人だったの・・・失望と怒りで涙が出て来る。泣いてる姿なんか見せたくないのに・・・悔しい。


私達はしばらく睨み合うように、向かい合った。やがて


「嫌いになったか?俺のこと。」


と尋ねる小笠原さんに 


「当たり前でしょ、軽蔑します!」


と叫ぶように答える私。


「信じてたのに、好きだったのに・・・。騙すなんて酷い、本当に最低です!」


溢れる涙がどうしても止まらなくて、それが悔しくて、私は下を向く。涙を見せたくなかった。


「ゴメン、ちょっといじめ過ぎたな。」


「えっ?」


「本気じゃねぇよ。そんなことして、お前を言いなりに出来ると思う程、おめでたくねぇよ。許せ。」


そう言って頭を下げる小笠原さん。


「とは言っても、キスは決めさせてもらう予定だったんだがな。」


「・・・。」


「好きだったのに、そう言ってくれたよな。」


「えっ?」


「今日はその言葉を梓から引き出せたことで、良しとするよ。」


「小笠原さん・・・。」


「帰ろうか。」


またしても豹変した小笠原さんに、私はどう反応していいかわからなくなる。


「そんな目で見るな、ちゃんと送ってくよ。」


「・・・。」


「俺にだって、プライドがある。澤城相手に卑怯な手を使って、お前をモノにしたって、嬉しくないからな。だけど梓、これだけは言っとく。俺は本気だ、本気でお前を手に入れたいと思ってる。お前が俺のことを少しでも思ってくれてるとわかった以上、俺は絶対に後には引かないから。」


「でも、澤城くんは私のことなんて・・・。」


「そうかな?まぁ、いいよ。その方が俺にとっては好都合だ。」


「小笠原さん・・・。」


「さっきのことは謝る。お前の気持ちが知りたくて、やり過ぎてしまった。もう俺のことが信じられないと言われるなら自業自得だ。だが、もし許してくれるんなら、来週もデートしてもらうぞ。」


そんな小笠原さんの言葉に、少し考えたけど、結局、私はコクンと頷いていた。


「ありがとう。ただしもう優しいだけの猫かぶった俺は今日までだからな。それだけは覚悟しとけよ。」


「・・・はい。」


と俯きながら答えると


「いい子だな、お前。」


そう言うと、小笠原さんは笑顔で、私の肩をギュッと抱いてくれた。