パサッ、それは突然だった。気がつけば、私は小笠原さんの腕の中に閉じ込められていた。


「梓!」


小笠原さんが初めて私の名前を口にする。ハッとして、思わず彼の顔を見上げる。


「お前が好きなんだ、誰にも渡したくない。誰にも・・・。」


そう私に告げた唇が、そのまま近づいて来る。我に返った私はとっさに


「嫌!」


と口走ると、必死に小笠原さんを突き放していた。そんな自分に、ハッと気付いた私はまた下を向く。呆然と私を見る小笠原さんの視線が耐えられなかったのだ。


「ごめんなさい・・・。」


そうつぶやくように言った私に


「なんで謝るんだ?キスを拒んだからか、それとも・・・それが俺の告白に対するお前の返事なのか?」


と詰問するような小笠原さんの声。


「わかりま、せん・・・。」


その私の答えに、2人の間に沈黙が流れる。さっきまでの楽しい時間が嘘のように、私達の周りの空気は重くなる。


「甘く見てたな。」


「えっ?」


「お前の澤城に対する思いが、そこまで強いとはな。」


突然、澤城くんの名前が出て驚く。


「お前がアイツのことが好きで、でも振られてしまったのは知ってる。振られたお前の方に、思いが残っていても不思議はないと思ってたけど、正直アイツが俺の敵になるなんて、考えたこともなかった。」


「・・・。」


「アイツを忘れさせて、俺に振り向かせることなんか、簡単だと思ってた。男として、澤城に負ける要素なんか、1つも見つからなかったからな。」


「あの、澤城くんは、今のことには関係・・・。」


「ないって言うのか。じゃ、あの嵐の中、澤城のことが心配で、内田が止めるのも聞かず、俺に嘘をついてまで、会社に駆け戻ったのはなんでだ?」


「・・・。」