思わぬ事態が起こったのは、翌週の中頃だった。


「こりゃ、直撃だぞ。」


木村さんの声がオフィスに響く。木村さんが見つめているのは、テレビのニュース。


11月の声を聞いたというのに、なんと季節外れの台風が私達の地方に接近していた。


「本当だ。真っ直ぐこっちに進んでますね。」


と私。


「昨日よりスピードが上がってる。このままだと私達の帰宅時間にもろ、ぶつかっちゃわない?」


「うん・・・。」


心配そうな千尋。


「まだなんとも言えないが、このままだと交通機関に影響が出る可能性が高い。場合によっては早上がりの指示が出るかもしれない。みんな、その可能性を頭に置いて、今日は仕事を進めて下さい。」


「はい。」


課長の言葉に、みんなが頷いた。


建物の中にいると、気にならないが、外は風雨ともに徐々に強まっているようだった。昼休みに改めて、ニュースを確認したが、状況は変わらず、どうやら直撃は免れないようだ。


「3時くらいで終わりにならないかな?」


「さすがにそれは無理でしょ。」 


「でも、定時までやると、本当にモロにぶつかりかねないよ。」


食堂でそんな話をしてから、オフィスに戻ると課長が外出の準備をしている。


そうか、今日はある取引先との定時打ち合わせの日だ。こんな天気なのに外出なんて心配だな・・・。


「じゃ、後はお願いします。こんな様子じゃ、今日はこのまま直帰させてもらうことになると思いますから、あとは部長の指示に従って下さい。」


「はい。」


「あと澤城達から連絡があったら、無理して帰って来なくていいからと伝えて下さい。」


今日は澤城くん達新人も、研修で朝から外出中。課長はちゃんと彼らのことも気に掛けている。


「わかりました、お気をつけて。」


課長代理に見送られて、課長はオフィスを出た。


『そんな心配そうな顔するな、適当に切り上げてちゃんと帰るから。それよりお前の方こそ、なるべく早く帰れるようにな。』


少し経って、課長からこんなLINEが入って来た。周囲に気付かれないように、それを読んで、私はちょっと恥ずかしくなって、でも嬉しかった。


『はい。お気をつけて。』


そう返信すると、私は急いで携帯をしまった。