「さぁ帰るか。」


頷いた私に、嬉しそうに笑い掛けると小笠原さんは言った。


「俺ってモテるように見えるか?」


駅に向かって歩き出すと、小笠原さんはこんなことを聞いて来た。


「モテない方が不思議だと思います。小笠原さんみたいに、イケメンで仕事が出来たら。」


「石原に面と向かって、そんなこと言われたら、困っちまうな。」


苦笑混じりで、そう言う小笠原さん。


「まぁ、今まで付き合った女性がいなかったわけじゃないし、告白されたことがなかったわけでもないのは確かだけど、特別モテた記憶はねぇなぁ。」


「そうですか?」


「なんだよ、その疑わしそうな顔は。」


「だって・・・。」


「そりゃモテないよりはモテたって俺も言いたいけどな。」


小笠原さんはやや困ったような表情になる。


「前の彼女と別れて、かれこれ6年くらい経っちまったけど、その間、そんなに言い寄られた覚えもねぇし。彼女がいなくて寂しいとも特に思ってなかった、これホント。」


「・・・。」


「恋愛の経験値って、そりゃないよりあった方がいいのかもしれないが、それって本当に役に立つのかな?」


「えっ?」


「だって、それが本当なら、経験値がほぼ0らしいお前より俺の方が圧倒的に有利なはずだろ?でも現実には、今は俺が一方的に惚れてるだけ。俺がお前を口説き落とせる保証なんて、どこにもないじゃん。」


「小笠原さん・・・。」