今の私の胸の内をぶつけられる相手は1人しかいなかった。


その日の仕事が終わり、時間を作ってくれた美里と待ち合わせたのは、いつもイタリアンレストランだった。


「いつも急にゴメン。」


「大丈夫だよ。まして梓の一大事なんだから。」


そう言って席についた美里は、私に笑い掛けてくれる。そして、オーダーを終え、私達は改めて向き合った。


「とうとうこの時が来たね。」


「えっ?」


「これまでサワ一筋。叶う見込みもないのに、全ての告白を受け付けなかった梓が初めて、コクられて、断らずに持ち帰って来た。これは画期的なことじゃない。」


「美里・・・。」


「で、どうなの?」


美里は単刀直入に聞いて来る。


「うん、素敵な人だと思う。カッコいいし、上司としても尊敬出来る。でも、正直そんな人が、なんで私なんかを・・・って戸惑ってる。」


ボソボソとそんなことを答えた私に


「何を言ってるの?相手が好きだと言ってくれてるのに、なんでそんなに自信ないの?私はそんな素敵なエリートに見初められたんだって、胸張ってりゃいいの。」


「でも・・・。」


「最初から結論言うよ。あんたへのアドバイスはただ1つ。相手がどうしても好きになれそうもないならともかく、そうじゃない限り、まずは付き合ってみなさい。」


そうハッキリ言われて、ハッと美里を見る私。


「まさかまだサワに未練があるわけじゃないよね?あるんだとしたら、そんなもの、この機会に捨てちゃいな。まして、友達に遠慮する義理もないでしょ?その子、結局上司にコクってるわけでもないんだし。」


「う、うん・・・。」


「確かに社内恋愛、それも上司と付き合うとなると、周りに気を遣う必要はあると思うけど、別にお互い独身なんだし。とにかく今、梓は、絶対に一歩を踏み出さなきゃいけない時だよ。その人との恋の結末がどうなるかなんて、まだ誰にもわからない。結果、梓がボロボロに傷つくかもしれない。もちろん、そんなことを望んでるわけじゃないけど、例え、そんな未来が待ってたとしても、いつまでも立ち止まってるより絶対にいい。梓、勇気を出しな。」


今、素敵な恋の只中にいる美里の言葉は、やっぱり説得力を持って、私の心に響いて来た。