黎が呼びかけると、微かにその肩が揺れた。
「架くん……」
黎と私は急いでいた足を緩め、少しずつ距離を詰めた。
「……もしかして、兄貴が言った『総て』って、俺のことも入ってたの?」
架くんは私たちに背を向けたまま言って来た。
黎が誠さんに言った、『真紅には総て話してあります』という言葉。
黎がどう答えるのか心配になって隣を見上げた。
「……ああ。俺は、馨さんにも逢ったことがある。真紅には、そのことも美愛さんと誠さんのことも、話した」
包み隠さない黎。
架くんに話すつもりはないと言っていたけど、ことがあらわにされた今、黎は弟にそう接すると決めたようだ。
「じゃあさ……俺は、兄貴の――黎の弟じゃ、なかったんだね」



