海雨ちゃんの姿と声で、しかしどこか違う響きに聞こえる。

「最初って……始祖当主って呼ばれる……?」

海雨ちゃんは、自分の胸に手を当てた。心臓のあたりだ。

「梨実海雨というのは今の名前というだけで、わたしはずっと影小路暮無の意識のままなんです」

「―――」

影小路暮無の意識のまま? くれない、というのが始祖当主の名前だというのも、俺は最近知ったばかりだ。

「……みんなに犠牲を強いてまで取り戻した旦那様です。転生したからといって、他の方と生涯を共にするのは、みんなへの裏切りだと思っています。……旦那様以上に愛せる方が、いるとも思えませんし」

そこで、海雨ちゃんは顔をあげた。薄ら微笑をたたえる。

「わたしは、わたしの命を生きます。それは梨実海雨の命であり、影小路暮無の命です。わたしは、澪さんの隣には相応しくない。……澪さんだけを愛してくださる方が、きっと現れます。ですから――

「それって」

拒絶しようとする海雨ちゃんを、遮った。

「『梨実海雨』ちゃんをすきでいるのは、俺の勝手ってこと?」