「……ばれてた?」

ちょっとバツが悪そうな顔をする海雨。私はくすりと笑った。

「暮無(くれない)様の姿で私の夢に出て来たでしょ。だから名前、『紅姫』なんだよ」

始祖当主は、名を暮無という。

暮れるのことの無い命を、という意味だろうか。

それが由来で、影小路一族では、本家の女子は『紅』の字を名付けられるようになったらしい。

「……徒人のわたしだけどさ、この身体にも始祖当主の影響力は、少しだけ残ってるから。お礼って言ったら変だけど、真紅に何かしたかったんだ」

「お蔭で仕事も楽させてもらってるよ。ね、紅」

私の膝の上に、小さな女の子が姿を現した。

妖異――猫の姿――の紅は徒人には見えないけれど、変化の妖異である紅は、変化した姿は見鬼でなくても見ることが出来る。

『海雨様。紅(べに)を遣いに出していただき、ありがとうございます』

「……いい子だね、紅姫は」

海雨が人型の紅の頭を撫でると、やはり本性が猫だからか、喉をのばして海雨の手に自分から頭をこすりつけた。

「真紅、澪連れて来たぞ」