『………』

彼女は黙って私の言葉を聞く。

『海雨がいてくれたから、私は一人の時間ばかりでも生きてくることが出来ました。あなたが否定されようと、私の親友だった海雨は、確かに居ます。私が全部、憶えています。私の感情を伴って、私が、忘れることも手放すこともしません。あなたが始祖当主でも関係ありません。私はあなたを『海雨』と呼びます。……あなたが私を『真紅』と呼ぶように』

最初から彼女は、私に『真紅』と呼びかけて来た。

にっと、笑って見せる。

『私を『真紅』と呼ぶ親友は、私には海雨だけですから』

彼女が大きく瞳を揺らした。私は続ける。

『元々私、大人数でいるより、仲のいい子一人と、二人でいる方がすきなんです。だから、私は海雨と一緒にいるのがすきだった。だから……せめて、謝らないで。ご当主様に辛い思いをさせたのも、私たちの始祖であることには変わりないから』

始祖当主だけが、罪の権化ではない。

泰山府君祭を行うことを決めたのは、始祖たちの総意なのだから。