どちらだ? そこにいるのが、海雨なのか、始祖当主なのか。
「………」
自分が不甲斐無い。
ずっと一緒に居た親友と、最初の主すら見分けられないなんて。
『あなたは、……海雨?』
問いかけると、彼女はふるりと首を横に振った。――否定。
『わたしは、ずっとわたしだったの。ごめんなさい、真紅。《海雨》なんて子は、本当はいないの』
『―――――』
今度襲ってきたものは、戦慄なんて生易しいものではなかった。
わたしは、ずっとわたしだった……? その言葉は、海雨の存在への否定か? 梨実海雨はいなかった……?
『何度――何度も、あなたたちはわたしを見つけて、わたしに知られぬようにと護ってくれた。徒人(ただびと)になった、影小路の罪の権化(ごんげ)であるわたしを……』



