「百合緋様? 真紅ちゃん?」
架くんは何も感じなかったようで、不思議そうにこちらを見る。
百合緋ちゃんは見鬼(けんき)だ。同じものが聞こえたのだろう。
「今の……社から?」
百合緋ちゃんが呟く。
黙って肯き、右足を半歩分、社へ近づけた。
《サレ、クリカエスナ、アカキタマシイ》
「――――」
今度ははっきりと聞こえた。百合緋ちゃんの肩がびくりと跳ねる。
百合緋ちゃんは視えたり聞こえたりする力しかない。
右手に、覚えたての刀印(とういん)を結ぶ。
《ココヨリ サレ アカキタマシイ ニノマイハ ユルサヌ》
唇を引き結んだ。
邪気(じゃき)はない。恐らく、白ちゃんが言った地神の声だろう。
――威嚇するような口ぶりだが、恐怖もしない。
……その忠告の意味、わかっていた。
心の中で、言葉を並べる。



