小路一派は、まだ真紅が俺と恋仲とは知らない。

知っているのは、紅緒様と小埜の人間の数人のみ。

真紅が本当に次代と望まれるほどの力を持てば――それでなくても始祖の転生として特別視されているくらいだから、それ相応の相手との縁談を望まれるだろう。

――元・鬼人で現・徒人(ただびと)の自分は、明らかにその位置には及ばない。

………だからって、別れる気なんてないけど。

父は無理を押して母を連れて来たくらいだ。最悪、自分も同じことをする。

その場合懸案(けんあん)になるのは、真紅の親友と紅亜様の存在だ。

真紅をここから連れ出せば、梨実とも離してしまうことになる。

真紅は梨実を助けるために影小路に入ることを選んだ。

それを、恋人だからという理由で引き離せるわけがない。

梨実が――ずっと一緒にいた友達が――いなければ、俺が出逢った真紅もいないのだから。