戦えない。


逃げろ。


分かってるのに、動けない。


金縛りにあったように、動かなかった。


男の手があたしへ伸びてくる。


その手にはハンカチが握られていた。


薬品を嗅がされる─。


危険を感じ、抵抗しようと我に返ったときにはもう遅かった。


口と鼻を塞がれ、ツンと鼻腔を刺激される。


バサ…


傘が落ちる音とどしゃ降りの雨の音を最後に、あたしの意識は消えていった。