わたしはスマホを持ち出すことはなかった。

「何してるの?」
「ちょっと、探しものを」
「松葉」

横を通り抜けようとすると、呼び止められた。足を止める。

「貴方、まだ秋水のところへ行ってるの?」

その言い方に振り向かずにはいられなかった。

「行っちゃいけないの?」
「……最中さんは知ってるの?」

目を細められる。わたしが雨女だと言ったのと同じ表情。

「言って、ませんけど」

言ってないのだから、言ってない、としか言えない。
母は少しだけ安堵した顔で、目を床へと逸らした。

わたしはその場から動けなかった。