「渉……」

歩が静かに俺の名前を呼ぶ。
彼女の顔を見ることができなくて、俺の視線はすやすや眠る杏をじっと見つめたままだ。

「この先も、きっとまた、こんなことでもめるんだろうね。
渡はモテるし、さんざん遊んできたみたいだし。」

歩の言葉が事実すぎて、反論できない俺は、もはや項垂れているしかない。

「でも、渉は私の大事な大好きな旦那様だし、杏の父親たから。

だから、私はその度にヤキモチを妬くんだろうけど、その度に渉は私を安心させて。

私をたくさん愛して渉」

杏から歩に視線をむけると、彼女の瞳が不安げに揺れていた。

ぎゅっと彼女を抱き締めてその柔らかな唇にそっと自分の唇を重ねた。

とたんに杏が目を覚まして泣き出した。

「おいおい、パパとママが仲良くしてるところを邪魔するなよ。」

杏を抱き上げると杏は目をパッチリあけて泣き止んだ。

「あー、もう今からパパっ子かぁ。杏と私で渉のとりあいだね。
パパ、平等に愛してくださいね」

俺たちが声を出して笑うと杏もつられたようにきゃっきゃと笑った。