ステージの濃いメイクを落として、ナチュラルな薄いメイク、ブラックデニムにTシャツすがた。艶やかな漆黒の長い髪を見なければ彼女だとは気づかない。

素っぴんに近い薄いメイクをほどこした彼女は美人だった。

声をかけようと近づきかけたとき、走ってきた何者かが彼女の腕を掴んだ。

「MOMO、いい加減俺と付き合ってくれよ!
最近、あのイケメンヤローばかり見つめてるがずっと前から俺は店に通ってるんだ!
好きなんだMOMO 」

「ごめんなさい。
前から伝えているけれど私大切な人が…きゃっ!」

彼女が男に抱き締められた。

「いやっ!
離して、いやぁ!!」

彼女の身体が大きく震える。

「離せ!」

男の腕を掴み正面から睨み付ける。

負けじと睨み返してくる男の腕のなかで、突然彼女はガクガクと大きく身体を震わせ、浅い呼吸と声にならない声を発した。

「…っっ」

まずい!

「何をしてる!!

すぐ離せ!過呼吸だ!
俺は医者だ!」

慌てて逃げて行く男から彼女を奪い、そっと抱き締めて背中をさする。

「大丈夫だ。
ゆっくり息をして。
そう、ゆっくりだ。
大丈夫、俺は医者だ。

安心しろ。いつもステージで見てる顔だ。
知らないやつじゃないだろ?

大丈夫、怖くない。
俺は坂口だ。
坂口渉。
落ち着け、モモ…」